電験一種 H29年 理論 問1
次の文章は、コイルに関する記述である。文中の(0)に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
空気中の広い空間にインダクタンス\(L_0\)のコイルがあり、理想的な電流源に接続され、常に一定の電流\(I\)が流れている。コイルの巻線抵抗は無視できるものとする。このとき、コイルに蓄えられているエネルギーは(1)である。
次に、十分遠方にある鉄片を、図のように時刻\(t=0\)からコイルにゆっくりと近づけることでコイルのインダクタンス\(L(t)\)を時間変化させ、\(t=T\)で鉄片の動きを止めた。ただし、鉄片の磁束の飽和やヒステリシス特性は無視できるものとする。\(t=0 \sim T\)の間、図に示された向きでコイルの電圧\(v(t)\)を測定すれば、電磁誘導の法則から\(v(t) = \)(2)が成り立つので、インダクタンス\(L(t)\)は\(v(t)\)を用いて\(L(t) = \)(3)の式で計算できることが分かる。
\(L(T) = L_1\)とすると、\(t=0 \sim T\)の間に電流源から供給されるエネルギーは(4)であり、鉄片の動きによりコイルが外部にした仕事量は(5)である。
(イ)(5) | \(\displaystyle \frac{1}{2}(L_1 - L_0)I^2\) | (ロ) | \(\displaystyle \frac{v(t)T}{I}\) | (ハ) | \(\displaystyle \frac{2}{3}(L_1 - L_0)I^2\) |
(ニ)(3) | \(L_0 + \displaystyle \frac{1}{I}\int_0^t v(\tau)d\tau\) | (ホ) | \(\displaystyle \frac{L(t)I}{T}\) | (ヘ) | \(\displaystyle \frac{3}{2}(L_1 - L_0)I^2\) |
(ト)(1) | \(\displaystyle \frac{1}{2}L_0 I^2\) | (チ) | \(\displaystyle \frac{1}{I}\int_0^t v(\tau)d\tau\) | (リ) | \(0\) |
(ヌ) | \(2(L_1 - L_0)I^2\) | (ル) | \(2L_0 I^2\) | (ヲ) | \(L_0 I^2\) |
(ワ)(2) | \(\displaystyle \frac{d}{dt}[L(t)I]\) | (カ)(4) | \((L_1 - L_0)I^2\) | (ヨ) | \(\displaystyle \frac{d^2}{dt^2}[L(t)TI]\) |
出典:平成29年度第一種電気主任技術者理論科目A問題問1
解説
インダクタンスが変化するパターンは過去問ではあまりなかったかと思いますが、理屈が分かっていれば解けない問題ではないかと思います。
コイルに蓄えられているエネルギー
電験一種受験者にはサービス問題かと思います。(ト)の\(\displaystyle \frac{1}{2}L_0 I^2\)です。
コイルのインダクタンスを時間変化させた時の電圧\(v(t)\)
インダクタンスに電流を流そうとした時の電圧が\(\displaystyle -L \frac{di}{dt}\)なのはよく見るかと思います。
ですが、今回は\(I\)は固定でインダクタンス\(L\)が時間の関数になりますので、答えは(ワ)の\(\displaystyle \frac{d}{dt}[L(t)I]\)です。
なお、この電圧は磁束の変化を妨げる方向に発生しますが、\(v(t)\)がその妨げる方向に定義されていますので答えに負の符号はつきません。
(選択肢にもないためこれが理由で誤ることはないですが)
インダクタンス\(L\)の計算式
(2)の式を変形すると以下が得られます。
\begin{aligned} v(t) &= \frac{d}{dt}[L(t)I] \\ dL(t) &= \frac{1}{I} v(t) dt\\ \end{aligned}
問題の答えが\(t\)を\(\tau\)としていますので置き換えて計算します。
(変数を\(t\)のままとして積分範囲を\(0~T\)でもよさそうですが\(L(t)=\)の形で求めるためにこうしていると解釈しています。)
ここで、電圧を\(\tau = 0\)から\(\tau = t\)まで積分する間に、インダクタンスは\(L_0\)から\(L(t)\)まで変化しますので、
\begin{aligned} \int_{L_0}^{L(t)} dL(\tau) &= \frac{1}{I} \int_0^t v(\tau)d\tau \\ L(t) - L_0 &= \frac{1}{I} \int_0^t v(\tau)d\tau \\ L(t) &= L_0 + \frac{1}{I} \int_0^t v(\tau)d\tau \\ \end{aligned}
となり、答えは(ニ)の\(L_0 + \displaystyle \frac{1}{I}\int_0^t v(\tau)d\tau\)です。
電流源から供給されるエネルギー
コイルに供給される電力\(p\)は
\begin{aligned} p &= Iv(t) \\ &= I^2 \frac{dL(t)}{dt} \\ \end{aligned}
で表されます。これを時間で積分したものがエネルギーになりますので、計算します。
時間が0~Tに変化する間に、インダクタンスは\(L_0\)~\(L_1\)に変化しますので
\begin{aligned} pdt &= I^2 \frac{dL(t)}{dt} dt \\ \int_{0}^{t} pdt&= I^2 \int_{L_0}^{L_1} dL(t) \\ &= (L_1 - L_0)I^2 \\ \end{aligned}
よって答えは(カ)の\((L_1 - L_0)I^2\)です。
鉄片の動きによりコイルが外部にした仕事量
コイルが最終的に保持しているエネルギーと最初保持していたエネルギーの差を計算します。
インダクタンスは\(L_0\)から\(L_1\)になっていますので
\begin{aligned} \frac{1}{2}L_1 I^2 - \frac{1}{2}L_0 I^2 = \frac{1}{2}(L_1 - L_0)I^2 \\ \end{aligned}
(4)で計算した電流源から供給されたエネルギーと先ほど計算したエネルギーとの差は
\begin{aligned} (L_1 - L_0)I^2 - \frac{1}{2}(L_1 - L_0)I^2 = \frac{1}{2}(L_1 - L_0)I^2 \\ \end{aligned}
電流源から供給されたエネルギーよりもコイルが蓄えたエネルギーは少ないです。この差分の\(\dfrac{1}{2}(L_1 - L_0)I^2\)はコイルが外部にした仕事量ということになります。よって答えは(イ)です。