電験一種 H27年 理論 問4
次の文章は, npnバイポーラトランジスタに関する記述である。文中の(0) に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選びなさい。ただし, \(k\) はボルツマン定数, \(T\) は温度, \(q\) は単位電荷である。
半導体の正孔のキャリア密度 \(p\) と電子のキャリア密度 \(n\) は平衡状態で \(pn\) 積一定という関係が成立し, さらに \(p=n\) では物質で決まる定数である真性キャリア密度 \(n_i\) を用いて \(p=n=n_i\) となる。そこで, 不純物ドーピング密度と同じになる多数キャリア密度が決まると平衡時の少数キャリア密度も決まる。
npnバイポーラトランジスタのベースドーピング密度は \(N_B\) である。すると平衡時のベースの少数キャリア密度は \(n_{B0} = \) (1) となる。ここで, エミッタを接地し, ベースは電圧 \(V_B\) に, コレクタは電圧 \(V_C\) にバイアスしたとし, \(0 < V_B < V_C\) とする。ベース層厚が \(W\) のとき, \(x=0\) をエミッタ側端, \(x=W\) をコレクタ側端とするベース層内の位置 \(x\) の関数としてベース層内少数キャリア密度を \(n_B(x)\) と表すものとする。エミッタに隣接した場所でのベース層内少数キャリア密度はエミッタ側から注入される電子により非平衡となり, \(n_B(0) = \) (2) となる。同様にコレクタに隣接した場所でのベース層内少数キャリア密度は通常のバイアス条件では, コレクタへ電子が急速に流れ出ることにより \(n_B(W) = 0\) とみなせる。
ベース層内でキャリア密度に非平衡があるので, 電子は拡散してエミッタ側からコレクタ側へ向かう。ベース中の再結合を無視できるとすると密度勾配は一定になり, \(n_B(x) = \) (3) と表され, 密度勾配は (4) となる。電子の流れは, 密度勾配に拡散定数 \(D_{nB}\) を掛けたものとなり, ベースから流れ出た電子の流れはそのままコレクタ電流となるので, 電子の流れに電子の電荷 \(-q\) を掛けるとコレクタ電流密度は (5) となる。
(イ)(3) | \(\displaystyle \frac{n_B(0)(W-x)}{W}\) | (ロ) | \(\displaystyle -\frac{n_{B0}}{W}\) | (ハ)(2) | \(\displaystyle n_{B0} \exp \left( \frac{qV_B}{kT} \right)\) |
(ニ) | \(\displaystyle qD_{nB}n_B(0)\) | (ホ)(4) | \(\displaystyle -\frac{n_B(0)}{W}\) | (ヘ) | \(\displaystyle -\frac{N_B}{W}\) |
(ト) | \(\displaystyle n_{B0} \exp \left( \frac{qV_C}{kT} \right)\) | (チ) | \(\displaystyle n_{B0} \exp \left[ \frac{q(V_B-V_C)}{kT} \right]\) | (リ)(1) | \(\displaystyle \frac{n_i^2}{N_B}\) |
(ヌ)(5) | \(\displaystyle \frac{qD_{nB}n_B(0)}{W}\) | (ル) | \(n_i\) | (ヲ) | \(N_B\) |
(ワ) | \(\displaystyle \frac{qn_B(0)}{W}\) | (カ) | \(\displaystyle \frac{n_B(0)x}{W}\) | (ヨ) | \(\displaystyle n_B(0)\exp \left( \frac{W-x}{W} \right)\) |
出典:平成27年度第一種電気主任技術者理論科目A問題問4
解説
難しい問題ではありますが、電験の場合は雰囲気で解ける問題もあるので拾える問題は拾いたいところです。
平衡時のベースの小数キャリヤ密度\(n_{B0} \)
問題にあるように、正孔のキャリヤ密度\(p\)と電子のキャリヤ密度\(n\)には平衡状態で\(pn\)積一定という関係があり、\(p=n\)の時真性キャリヤ密度\(n_i\)を用いると\(p=n=n_i\)なので\(pn={n_i}^2\)となります。
npnバイポーラトランジスタのベースドーピング密度は\(N_B\)ですから、この時の平衡時のベースの少数キャリヤ密度は\({n_i}^2\)を\(N_B\)で除したものとなります。
よって答えは(リ)の\(\displaystyle \frac{n_i^2}{N_B}\)です。
エミッタに隣接した場所でのベース層内少数キャリヤ密度
解答の選択肢を(ハ)、(ト)、(チ)まで絞れたとして、問題はコレクタ電圧が答えにかかわってくるかどうかかと思います。
この式が言っていることはあくまでエミッタ-ベース接合におけるキャリアの量であり、コレクタ電圧には依存しません。よってコレクタ電圧が出てくる(ト)と(チ)は消去法で消せますので、答えは(ハ)の\(\displaystyle n_{B0} \exp \left( \frac{qV_B}{kT} \right)\)となります。
厳密な理解には専門書を読んでください。
\(n_B(x)\)
\(x\)の関数である選択肢は(イ)、(カ)、(ヨ)ですが、このうち\(x=W\)の時に0になるものは(イ)の\(\displaystyle \frac{n_B(0)(W-x)}{W}\)だけです。
よって答えは(イ)の\(\displaystyle \frac{n_B(0)(W-x)}{W}\)です。
密度勾配
傾きを求めるために(3)の解答を\(x\)で微分します。
\begin{aligned} \frac{\mathrm{d}n_B(x)}{\mathrm{d}x} &= -\frac{n_B(0)}{W} \\ \end{aligned}
よって答えは(ホ)の\(\displaystyle -\frac{n_B(0)}{W}\)です。
コレクタ電流密度
問題文にコレクタ電流密度は電子の流れに電子の電荷\(-q\)を掛けたものであり、その電子の流れは密度勾配に拡散定数\(D_{nB}\)を掛けたものとあるのでそれをそのまま計算します。
\begin{aligned} -\frac{n_B(0)}{W} \times D_{nB} \times (-q) &= \frac{qD_{nB}n_B(0)}{W} \\ \end{aligned}
よって答えは(ヌ)の\(\displaystyle \frac{qD_{nB}n_B(0)}{W}\)です。